プロバンス リュベロンより 1

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    しばらく忙しくしていた後、半月ほど南仏へ行っていた。夫と、前回このブログでもご紹介したダヴィッド パッカンと一緒だった。彼は一月に我が家へやって来て以来、ノルマンディーとパリで休むことなくフィルムを回し、そのまま南仏の彼の故郷プロバンスはリュベロンへ車を走らせ半月ほど撮影を続けた。

    スケジュールは真冬の天候おかまいなしの厳しさで、そこに寒波と積雪が重なりハードだった。とはいえとても愉しく充実し、寒さの中でも暖かな仲間と歓待に恵まれた、ユーモアと笑いの本当に絶えない和やかな時間だった。
    そして関係した仲間のそれぞれがクリエイティブで、子供の舞台脚本振り付け、ミュージシャン、俳優と味わいがあり、またそれ以外に集まった街の人々も(時々お料理を作ってくれたひとも含め)互いに新しい刺激も受け、限られた時間の中で多くを分かち合えた。 最後の晩には監督の奥さんと私で料理をし(私たちは偶然に料理の相性がよく、キッチンでも息が合った)撮影に関わった仲間たちを招待し愉しく過ごした。そのなかには滞在中に私たちを夕食に招待してくれた人々もいた。食事の後は誰からともなくなにかしようという高揚感が膨らみ、自然な流れでたまたまその家にあった私たちも良く知っている種類の(オラクルのような)カードを皆で引いて分かち合った。誰もがその状況下でのメッセージの内容に納得しているようだった。行く先々で気の合う仲間とこういう時間が生まれるのは、私も夫も独身時代からも出会った頃も共通していたけれど、ひさしぶりのいい旅だった。そんな機会をもたらしてくれたダヴィッドとベロニクに感謝。

                           ☆


    自分の気持ちに正直に生きていてやってきた機会は、それが自分にとってどんなに新しい未知のものであっても、受け入れてみるといい、あらためてそう実感した。表面的には(自分の意識や判断、想像力では)それがどんな風にみえても、その根底で自分に必要であった何がもたらされているのか、他ではできないどんな出会いや学びがあったのか、それがより早くわかり受け取ることができることは、ある種の豊かさかもしれない。そんななかに、自分が長い間探していたことを知っている人々がいたり、思いがけない二次的な産物が溢れていたり、身体的な労働の中に必要だった霊的な休息が得られたり。出来事の根底で何が起こっているのか、何が癒されどんな手が差し伸べられてきているのか、大きな意味でなにが起こっているのか。それらを漠然とでもいつも感じることができ、細部にこだわらず、重要でない部分は譲り、有り難く思えていることはきっと一つの幸せの形なのだろう。願わくば、いつも常にそういう気持ちでありたいもの。そしていつもあらゆる可能性に対して柔軟にいたい。


    歳をとってもいろいろな新しいことをやってみることの大切さも、リュベロンでの滞在中に感じてきた。
    自分の心に従って生きれば、すべての出来事は一つの糸に落ちてゆく数珠の玉石のように、人生の過去とも未来とも調和しながら形をなしてゆき、自分の中で何一つ無駄になることがきっとない。一見ちぐはぐに見える石のビーズのすべてが必要不可欠で、新しくやって来る数珠達によって想いもよらない新鮮な取り合わせに高揚感を感じながら、古い石達もそれぞれに生きて光りを増していくことを感じながら、歳を重ねる毎に味わいや静かな深い愉しみを得るものかもしれない。多少の無理は在っても、そう思わせてくれるものに出会える有り難さ。それは、贈り物のようなもの。自分の人生を愛すると、お返しに人生に愛される。時には辛い出来事が起こっても。

    とはいえ、誰も一人では歩けない。私の弱点をそばに居る人や遠くに居る人、出会った人がフォローしてくれ、時には行きずりの人や動物達までもが、空から落ちた助け舟のようにアクシデントを解決してくれ、できない事をやってくれて(そう私には足りない所が多々ある)、私にもできるフォローをしあって、互いが歩ききることができる。 、、、歩かされてゆく。

                        ☆


    さて、夫が主演するダヴィッドとのこの収録についてはまだ口外できないそうだ。撮影の大半が行われた南仏の小さな街で五月に関係者や地元の人々と小さな上映会があることは決まっているそう。期限が決まってしまっていることはモンタージュを一人こなす監督にとって、さぞかし大きなプレッシャーだろうと思う。彼はこれからニューヨークでの撮影に飛ぶ。それにしても、なんという体力と精神力、パッションだろう。私たちも来月もう一度南仏へ行く。

                              ☆

    環境に優しい生活。


    前回の作品テーマがシャーマニズムであり、話していれば根底ではいつもその道の上を歩いているらしきものを感じるダヴィッドでも、自分はそれだけではなく人生の中にあるすべての側面を受け入れ愛でていたいし、なにか一定のイメージで自分を捕らえられたくはない、といっていた。私自身も、また私の家族や友人の農家もそうであるけれど、環境や調和など生命全体への意識が高いからといっても、とりわけ視覚的にそれが生活空間に強調されていることはほとんどなく、大抵は極めて素朴なもので、たまたま縁のあった生活環境を受け入れ上手に工夫しているものだ。長い間世界中の同じ考えの人々の家々を渡り歩いてきたので、本物はどんな風に生きているのか、というものを見せていただいてきた。むしろ、視覚的に華やかに強調されているようなものは、どこか名ばかりの偽物のような印象を与え、一緒に住んでいてもどこか疲れてしまうものだ。そんな訳で私はお世話になる監督のお家にはなにも期待せず、なにも想像していなかった。いろいろと配慮していただいた家庭料理を一緒にいただけるだけで有り難かった。



    門のない小道の入り口で車をとめて、ポストで郵便をとってから、まだ車は小道を走り続ける。
    家は大きな木々が生える木立の庭の中にあり、隣家は見えず、敷地には泉が湧いていた。リュベロンの名を幸せの象徴のように世界に広めたのは、この随所に溢れる豊かな湧き水だろう。泉にはノルマンディーの古い洗濯場でもみられるように、屋根と柱と、一部に壁のある小屋が立っている。きっと秋にはこの屋根のある小屋の竃に火をたいて読書をしたり木々を愛でたりするのだろう。ここに竃をつくったのは自分で、ちょっと一人静かに瞑想に耽りたい時などのためにね、とダヴィッドは言った。
    三匹のネコや、犬、鶏や、野生の鳥がここへ水を飲みにくる。そこから畑へ水が引ける。泉の水は緩やかな傾斜に沿って流れ、水質浄化の植物が生える浄化の小プールへ溜まり、そのとなりの大きな夏の避暑のプールへ流れこんでいる。もともとこのように作ってあったのだそうだ。ここの大地はクレイを豊富に含んでいるので湧き水もクレイが豊富。水道水で溜めてあるプールではなく、泉から流れているクレイ水なので、カタルシスの効果がとても高いだろう。こんなものがあればとおもっていたものが、すでに存在し、目の前に現れた。

    暖炉・火
    リビングには暖炉が在り、外からその日の分の薪を運ぶ。コートを着て雪の中、両手に薪を運んだ。切り方が大きくて結構重い。(コートは撮影にも着ていた自前のコートで、夫と出会う直前に銀座の松屋で叔父に買っていただいたコート。寒さに気を付けねばならない体だった私の冬の旅の為にという叔父の心遣いと若かった私の甘えで大枚を叩かせてしまったもので、以来毎年真冬に大切に着ている一番暖かいものです。今回の撮影で私はこのコートを着たいと言ってみました。)
    暖炉は普段は子供達が学校からバスで帰り、お母さんが職場から戻る夕方から火をつけあたためるそう。「ほんとうは暖炉の暖房だけにしたいけれど、それでは消している間の寒さから温度を上げるだけでも時間がかかって大変なの。だから、ひとつだけエアコンをつけているのよ、このことに納得できているわけではないんだけれど。と奥様のベロ。そう、暖炉だけの家は、朝と、外出から帰った時が結構寒いもの。
    火には、強力な浄化の力が在ると感じる。ある空間の中で、いかなる仲間でも、厳しさや重苦しさを感じた時に火を灯してみてほしい。会話が在らぬ方向へ流れその愛情や叡智に貧しいとき、火を灯してみると自分を含めなにかがはっきりと変わることがある。暖炉やたき火のような大きな火のそばでは会話も異なる。このなんという良い香りと音。火が与えてくれるのは、空気の温度という暖かさだけではない。


    太陽熱
    家のお湯は太陽熱で裏庭にソーラーパネルが見えた。ソーラーだとこんなに寒い冬の日々には決して熱々ではない。すこし寒々した浴室で、熱くはない、暖かいシャワーをさっと浴びるのみで零下の冬をのり超えられるとは、やはり山岳育ち(それでも子供達の寝室や浴室は暖炉の上に位置し暖か)。私は日常シャワーだけれども熱いシャワーを浴びるし浴室は暖かい。浴槽であたたまるのはごくたま。流水というのは滝と一緒で汚れを落とすだけでなく浄化でき、停滞したよけいなものも流すことができるもの。付着したものが落ちて波動が高まるので結果的に体はあたたまり、湯冷めがない。ソーラーシステムのお湯のせいか、土地の水質なのか、こちらでシャワーを浴びたあとに体が軽く髪がしなやかで気持ちが良く、肌が心地よいと感じた。
    ビオ一色の奥様の手作りの食事やコスミックアグリカルチャーのワインもあいまって、雪の中の屋外撮影など過酷なスケジュールと天候でも、滞在中は風邪も引かずに乗り切れた。

                             ☆

    動物
    ユースーという名の犬

    彼の家には三匹のネコの他に、ユースーという賢い黒い犬がいる。これは彼の犬で、この犬がとてもテレパティーに長けて(つまり純粋に動物的で)、おどろくほど私の気持ちを読んでくれ、滞在中のよいカンパニーだった。
    ペットというのは、だいたいその主人や環境に共鳴しているもの。
    最初の日のことだ。パリの撮影からまっすぐ南仏への移動と遅くまでの夕食で疲れがたまっていたので、お昼まで休ませてもらった。午後に母屋へ行くと蛻の殻。
    「あら、誰も居ない。いったい皆どこにいってしまったのだろう?」と考えていると、眠っていたユースーはすっくと立ち上がりドアまで来て愛嬌をふりまき、さっと庭を私のいる離れと反対の方向へ横切る。「どこにいくの?」とためらいながらついて来る私を行ったり来たりしながらガイドしてゆく。その果てに、こんもりと盛り上がった大地があり、その大地のなかにドアが見えた。彼が鼻でドアを押すので、「ここ?」とノックするとダヴィッドが扉を開け驚いていた。夫も一緒だ。ここは彼のアトリエ、スタジオのようだった。
    「あ...... 」「探してたら、ユースーがガイドしてくれたの。」「ああそうか。どうぞ、入って。」

    以来、なにかと私の想いを読み、そしてとても礼儀正しかった。一度一人でオフの日に、「話に聞いた近所のちょっと眺めの良い場所まで散歩してみたいものだけれど、どこかしら?ちょっと説明しにくいっていっていたけれど。。。遠いのかしら、行けばわかるかしら。ユースーは知っているかしら?」と考えてユースーをみると彼は散歩に行けるぞと躍り上がって喜び大興奮、私が通れる道を通って私のペースで歩き、そこへ案内してくれた。古いオリーブの木がたくさんあった。いい所だね、案内してくれてありがとうねとほめると大喜びし、帰りは私をそっちのけで、薮の中を四方八方に走りまわり満足げだった。私は他より香りの強いタイムが沢山自生しているところを見つけ、沢山摘んだ。そのあとで大雪になり雪はずいぶん続いたので、それが唯一の散歩とタイムを摘めるチャンスだった。
    「あそこまで彼を散歩につれていった?それはもう、彼は一生君を大好きだろうさ。」そう言われた。


    雪の中でも暖炉の前でもよく体をくっつけて一緒にいた。「あなたのそばに動物がよく、くっつきに行くみたいだけど。」奥さんや子供達はそういって、見ていて可笑しいと笑っていた。
    小鳥や鳩やカラス、動物、魚、、なにかと近しく、ときには人間関係以上にそちらの方で忙しいことが、たびたびあったかもしれない。

    (2へつづく)


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