古い部屋に息を吹き込むように住む。(クレタ島)

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    クレタ島 オールドタウンの家の近所     水彩 2001(Fanayuko )


    ギリシャ時代の春の日記より。(五年前、2006年4月 過去サイトより転載)

                  ♪♪♪ ♪♪♪ ♪♪♪ ♪♪♪

    すこし前に、帰国を考えた。いろいろな背景を考えて、決断をせまられて、結局もう少し残ることにした。 それまでに住んでいた二つ目の家は、本当に気に入っていた思い出一杯の家だったけれども、残念ながら契約切れでおわかれ。カフェバーが並ぶビーチのそばの一等地だったので、シーズン中はお家賃は四倍に跳ね上がるという家族のバカンス用のアパート。 ひとりにはゆったりの家だった。フランスから友人が来るかもしれないのでちょうど良いと思ったけれど、普通に長く住むにはちょっと贅沢。来客用の寝室があったけれど、乾いた洗濯物置き場程度にしかつかっておらず、友人は近所なので遅くなってもあまり泊まらなかった。

    忙しかったなかで、どうしても妥協できずに3週間くらい部屋をさがしていたかな。

    知人、友人が、ここならあいているよ、という部屋は、車の騒音、立地条件、ちょっとしたことが気になって決められなかった。
    「けっこう選ぶよね」 そんなことをいって笑った友人に、こたえた。
    「うん、ごめんね。二人ならね、何でもいいのよ。ねずみが出ても笑えるし、おんぼろの家でも、素敵なお城ねえって、笑える。でも、一人には家って大切なのよ、惚れたいの。恋人みたいなもの。大好きになってそこにすんで居たいのよ。その日一日何があっても、家にかえれば「オーケイ」ってなれるような、そんなふうな。とくに旅人にはね。」
    「なるほど、ああ、なんかわかるなあ。」

    そんな私に、突然吉報が。土地の人もなかなか縁がもてない、オールドタウン(昔ベネチア人の作った港の周りの旧市街)の素敵な部屋だった。 目の前の一角は、私がついすこし前に立ち止まり、このあたりの木々や草の香りと言ったら、なんと芳しいことだろう!と思わずベンチにしばらく座っていたところ。 そのベンチの後ろの部屋だった。

    老夫婦が住んで、伴侶をなくした一人が出て行った家だそう。足が悪くて掃除も行き届かなかった古い家だった。くもの巣だらけ。ト・ディクティ。

    ここ数日は埃だらけになってこの数百年の歴史のある部屋を、たまに友人に手伝ってもらって天井から磨いた。京都に住んだ時代に建築家達と関わり、「町屋を買って修理して住み、大切な街の遺産を守ろう」とする運動をしていることを知ったけれど、そういった運動の中心にいるのは、デンマーク人やスウェーデン人など北欧の人だった。その人々に、教わったことが沢山ある。
    そこに居る人、そこから出た事がない人には、見えない遺産がある。
    その運動の参加者は、数少ない外国帰りのバイリンガル建築士や、帰国子女で日本の伝統文化を学んでいる人などで、会合は茶室で日英語がまざっていたような気がする。

    京都駅ができるころ、三条大橋のとなりにパリの橋(ポンデュガール橋)のレプリカ橋が建設される話が出たときに、それが実現せずにすんだのは、他でもなくこの長い間京都に住む欧州の人々の叫び、訴えと、地元の若き日本人建築家グループらによる署名の呼びかけのおかげだった。
    美しいセーヌ川沿いの小さな村の若者達が自分の街にマクドナルドができる事を夢見るように、京都の若者達はパリの建築の模倣が京都加茂川に建設される事に密かに興奮していたと思う。このギリシャも同じだ。私はこの誰も寄り付かなそうなほど汚い古い部屋を借りて、蜘蛛の巣まみれになりながら、あのころ町家に住む欧米人が京都でしているのをみたように、ギリシャで同じ事をしているのかもしれない。アメリカナイズされることを夢見る若者も少なくない中で、なにがクレタ島の素晴らしさ、魅力なのかを訴えながら。都市化する果てに、なにが起こるのかを伝えながら。


    私は、自分のためにしていることが、大好きな土地のためでもあり、見放された部屋に息を吹きこむことでもあることが嬉しかった。あのころの彼らも、京都を愛していて、愉しかったに違いない。木枠を磨き、オイルを刷り込み。美大時代の木工房を思い出した。デンマーク人のお茶の先生は、廃墟の家具や障子の枠をもらってきては、きれいに生まれ変わらせて使いこなしていた。
    掃除をしながら頭の中には、レベティカのト・ディクティ(蜘蛛の巣、網の意味)の曲がかかっていた。

    シャワーを浴びるには、タンクのお湯を電気で暖める。
    2、30分くらいまつ。そしてスイッチを切る。(夏は太陽光なのか、そのままで暖かいことも多いし、春も15分くらいですむ)。
    そのお湯のタンクは、上下階4戸の住人が共同で使う(それぞれの家で)。今では四戸でも、その昔は一つの大きなベネチア様式の館だったらしい。ぐずぐずしていると、他の人が使ってしまってまた待たなければならなかった。それがオールドタウン。イタリアやポルトガルなどの間借りのホテルも同じ。だれもが住めるくらしではないことが、よくわかる。でも私は、こういうすこし不便なようなシンプルな暮らしをしたときに湧き出てくる(でも必要なものはちゃんとある)、独特のなにかが好きだ。生命力が湧くような、直感力が研ぎすまされるような感覚。

    ついこのあいだまでの家には、エアコンも洗濯機も、テレビも、オーブンもなにもかもあった。最初のショックはあった。 けれど、すぐに気がついた。
    古い石の壁、朝の石畳にこだまする鳥の声。私自身が、より自分らしくなる。 体が喜んで。
    そう、これは、アルプスの山の暮らしが、街の中にあるようなものだわ。と。気づく。
    ロードス島でも、スイスでも、疲れて充電が必要な時には、電気も電話も届かない、見渡す限り木々と動物しか居ない、星の降る中で過ごしてきた。何週間も、そのうちに狐やマーモットと知り合いになり、時折異なる人が現れると反射的に私は小屋の陰へ隠れ、心臓をドキドキさせて見つからない事を願った。
    ここは、その中道くらいかもしれない。

    オールドタウンに住んだ、初めての日本人と言われた。 運があるのね、とも。
    逆に、お化けがでるんじゃない、よく選ぶね、という人も。
    その後も、ロンドンから何度も何度も来てオールドタウンに部屋を探している日本の人などにも会って、どうやってそういう部屋を見つけるのかと聞かれた事がある。もう何年も部屋を買いたくて探しているのだと。
    どうやってそういう旅をするんですか、と聞かれる事も多い。

    この家をどんなふうに知ったのか?
    この時の私は、新聞の欄をみることをやめて(この島には不動産屋はない)、自分の住みたいあたりを歩き回って、やっぱりこの辺がいいなあ、ここもいいなあ、など思いながら、やがて浜辺でぼんやりして、なんとなく帰り道にタベルナに座っていた女性と目が合って、ちょっと興味をもって挨拶して話した(デンマーク人だった)。
    その人が私に指をさすように、思い出すようにいった。
    「、、、待って、部屋を探してる? 貴方にぴったりの部屋がある。絶対。気に入ると思う。私はしばらく前にみて、欲しかったけれど、店をやるには小さすぎたの。でも素敵なのよ。オールドタウンは知らない人をいれたりしないから、べつにとくに住人を捜さないの。だから、まだあいているとおもう。あんまり人に言わないんだよ、私も気に入ってるからね。私はあの部屋は、貴方だと思うな。そう私にいわれたって、この住所へ行って、マリアって娘に言ってみな。多分大丈夫だと思う。あたしの店の住所はこれ、近いうちに寄ってどうなったか教えてよ。」

    マリアという子は、テサロニケから来た若い子で上の階の住人だった。大家さんに電話をして取り次いでくれ、翌日会って鍵を手にした。引っ越してすぐ、お昼ご飯に招待してくれた。


    この街に、もうすこし滞在できることに、感謝しながら。。


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